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大好きな馬とお別れした方へ

近頃、身近な馬とお別れしたという話をよく耳にします。

乗馬施設の閉鎖、事故、病気、老衰など、原因は様々ですが、その多くが、突然やってくるものです。十分準備が出来たという方が少ないでしょう。

今回は、身近な馬、大事な馬とお別れをした方へ、僕の経験談も踏まえて、ちょっとしたお話をしたいと思います。

また、今回の内容は、人によっては聞きたくないものかもしれません。それを了承した上で、聞いて頂ければ幸いです。

MEMO
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僕の場合:出会い

以前、僕が担当していた、とある馬とのお話です。

その馬は、お茶目な4歳の女の子で、食べ物を見ると目がキラキラする面白い馬でした。

当時、僕は馬を扱い始めて間もなく、当たり前ですが、技術も持ってません。

担当とは言っていますが、乗って調教できるような腕もなく、ただのお世話係みたいなものでした。

その子は、良い意味で感情がハッキリしている馬でして、喜怒哀楽が、とても分かりやすかったんですね。

お世話をしていても、乗っていても、嫌な事はハッキリ嫌だと言ってくるんですよ。

なので、扱い方の正解、不正解がよく分かるんです。

手入れの仕方、乗り方、触れ合い方など、僕の馬の技術は、人ではなくこの馬に教えてもらったようなものです。

また、教えてる人が言った通りにやってるのに、嫌だという反応をされる事がありました。

上手くいかず、その人と僕が乗り替わるんですが、形こそ求めている状態になってても、 嫌がってるのがハッキリと分かるんですよね。

そうすると、教科書に書いてあるような正しいやり方と、実際に馬が動きやすいやり方が違うのも、分かるわけじゃないですか。

人が「やってる」と思ってても、それが馬にとって 良いものとは限らないと知ったのも、この時でした。

その後、この子には、多くの事を教えてもらいました。

口へのハミのかけ方、無理なく踏ん張った姿勢を維持する騎乗、触る時の距離感など、言葉では理解しにくい部分を、感覚で教えてもらいました。

内心めんどくさいとは思ってたかもしれませんけどね。それでも、全否定する事なく、僕みたいな下手くそに付き合ってくれて、面倒を見てくれました。で、食べ物を出したら相変わらずキラキラしてました。

とても可愛かったし、今でも感謝しています。

僕の場合:別れ

ある日、僕は仕事こそ休みでしたが、自分の道具の整理をしようと、職場に足を運んでいました。

すると、同僚が、血相を変えて飛び込んできました。担当の馬が故障したと言うのです。 

どうやら、僕が休みだったので、別の方が運動している最中に、足の骨を骨折したみたいでした。

慌ててその馬の元に急ぎました。

やっと辿り着くと、痛みで地面に脚を付けられないその子がいたんです。

一目見て、僕は状況を悟りました。

馬は、骨折の程度がひどく、1本でも脚が地面に付けなくなると、血流が滞ったり、他の脚への負担が大きくなったりする理由で、合併症を起こします。

それは、結果として骨折以上に苦しい状態に馬を追い込んでしまうため、大体はその場で安楽死の判断をされるんですね。

まさしくそのパターンでした。

過去の競馬の映像で、馬の事故の悲惨さや、安楽死という判断があるのは知っていました。 ですが、まさか僕の目の前で、こうして現実になるとは思っていませんでした。

「馬に関わる仕事に就く以上、こういう事もある。当たり前にしないといけない。」という、馬人間としての意地だけが、その時の僕を支えていました。

無駄に格好つけて、「自分が馬運車に乗せます」と、最後の時間を引き受け、隣を歩きました。

普段は嫌がるくせに、こういう時に限って、スムーズに馬運車に乗るんですね。最後まで、自分はリードしてもらってばかりでした。

馬運車の扉が閉まり、その子が倒れたであろう音が聞こえた途端、何か糸が切れたんでしょう。僕は思い切り泣いてしまいました。

以上、僕の経験談でした。改めて、その馬には感謝でいっぱいです。

皆さんに伝えたい事

馬は、生まれた時から、人間に一生を決められる動物です。

人間の都合で親と離され、人間の都合で走らされ、人間の都合でその先が決まる動物です。

それでも馬は、人を乗せ、人のために走り続けます。お別れする直前まで、懸命にその場所で生きています。

だからこそ僕たちは、そんな馬とお別れする時に、非常に無力感を覚えます。もっと馬の知識があれば、もっとお金があれば、もっと沢山の事をしてあげたら。そんな思いばかりが頭に浮かぶでしょう。

でも、馬にとって、それだけ愛してもらえるというのは、本当に幸せなことなんです。

残念なことに、世の中には、人に頼らず馬が生きていく環境はありません。野生のウマは絶滅し、競走馬として生まれたとしても、全ての馬に手が行き届いていないのが現状です。

そんな中で、あなたがいてくれて良かったと言ってくれる人に出会えるのは、本当に幸せです。

普段はあしらわれているかもしれませんが、皆さんの、自分から面倒を見てくれる暖かさには、本当に感謝していると思います。

何も出来なかった、なんて言わないでください。

あなたのその気持ちが、どれだけその馬を救ったかは、計り知れません。それだけで十分なんです。

現在、引退馬への取り組みも徐々に浸透し、色々な団体が動き始めています。あなたと同じ考えを持った方が、あなたと同じ経験をした方が、馬の生きやすい世界を作ろうとしています。

どうか、その優しい気持ちを失わないでください。それが、お別れした馬と、今後生きる馬たちの幸せに繋がっていきます。

まとめ

今回は、身近な馬とお別れした方へ、という内容でお話をしました。

少々辛気臭い内容になりましたが、最後までご覧いただき、ありがとうございます。

僕は、馬には、有り余るほどの魅力と可能性があると思っています。

今、置かれている状況より、もっと馬が活躍する世界は作れると信じています。

だからこそ、今回話したような事もありましたが、馬の仕事を続けています。

それは、悲しい事があっても、上手くいかない事があっても、それでも馬と一緒にいてくださっている皆さんも同じだと思います。

上手く言葉には出来ないかもしれません。でも、皆さんのその気持ちが、今後の馬との道を切り開いていきます。

ぜひ、その思いを、大切にしてくださいね。

ご覧いただき、ありがとうございました!

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